【インタビュー】和田実教授

2016年から2020年3月までベトナムで実施されている「カントー大学強化附帯プロジェクト」
その専門家として従事している水産・環境科学総合研究科の和田実教授に、同プロジェクトの取り組みや現況についてインタビューを行いました。

――本プロジェクトは農業、水産・養殖、環境分野でのカントー大学の研究・教育能力の向上を目指しています。
和田先生が専門家としてプロジェクトに参画したきっかけは何ですか?

和田教授:長崎大学海洋未来イノベーション機構の石松惇名誉教授に誘われ、科研費の海外学術研究の分担者として、2011年5月に初めてベトナムのメコンデルタ地域に入りました。
当時、カントー大学のCollege of Aquaculture and Fisheries (水産学部)と研究を行っている長崎大学の研究者は石松教授が初めてで、カントー大学の受け入れ窓口になったTran Dac Dinh先生が各地に連れて行ってくれました。
そのうち、メコン川沿いにハゼの多様性についてサンプリングできる場所があること、及び、1種類のハゼ(ホコハゼ)の養殖が行われていることに興味を惹かれました。

市場のホコハゼ

和田教授:ナマズがベトナムから欧州へ向けた水産物輸出の主力であるのと対照的に、ホコハゼは鍋の食材として町の市場で売られており、メコンデルタの人々のソウルフードです。ホコハゼの養殖方法は非常にシンプルです。
地面に穴をほり、メコン川の水を引いて満たしたら、種苗に餌を与えるだけなのです。
ホコハゼは水面呼吸をするので、水が汚れて空気が少なくなっても、顔を水面に出して呼吸することができます。
そのため、水は藻類が異常増殖して緑色に濁った状態でも、水質を管理することもなく、養殖が成立つのです。

ホコハゼの養殖池 水面に顔を出すハゼたち.

和田教授:この調査は2013年に終了しましたが、その後、本プロジェクトが始まり、カントー大のカウンターパートのDinh先生とのご縁から石松先生とともに水産分野のプロジェクトに参画することになりました。

――本プロジェクトには9大学が基幹支援大学として参画していますが、長崎大学はどのような役割を果たしていますか?

和田教授:長崎大学は基幹支援9大学として、国内支援委員会の一員です(他の基幹支援大学は北海道大学、東京大学、東京海洋大学、東京農工大学、京都工芸繊維大学、大阪大学、九州大学、鹿児島大学)。
2019年度の専門部会には、農業分野に濱崎宏則准教授(水産・環境科学総合研究科)、水産・養殖分野に私が参画しています。

和田教授:また本プロジェクトの活動の1つである「円借款による共同研究」(35研究)に長崎大学水産・環境科学総合研究科の教員が参画し、水産・養殖分野で8研究、環境分野で12研究が行われています。
人材育成の一環として、これまでに修士課程6名、博士課程33名を受け入れています。
さらにカントー大学から教職員が来崎し、長崎大学全体で、短期研修員52名が本学で学びました。

ハゼの養殖池の脇で同行した大学院生がサンプル処理中
――この地域でのプロジェクトを継続するうえで、大変だったことは何ですか?

和田教授:本プロジェクトではなく、科研費の継続研究の話になりますが、カントー大よりもさらに南部にあるバクリュー省というところに、ホコハゼの養殖場が集中しており、2013年までに複数回、現地調査を行っていたことから、その後も同じ場所で継続研究を行いたいと思っていました。
しかし、2014年以降になって突然、先方から「今後はここで調査を行うことはできない」と通達されました。
その理由は、外国人の研究者が調査に入ることを地元自治体が快く思っていないためと聞いていますが、本当のところは分かりません。
このように、さまざまな現地の事情で、フィールドへのアクセスが突然絶たれてしまうことに難しさを感じました。

和田教授:本プロジェクトについては、日本人専門家として、プロジェクトに対するレビューやコメントを行いますが、先方がやりたいこと、研究したいことが優先され、必ずしもそれが活かされないこともあります。
石松名誉教授がもともと行っていた研究はボトムアップで、調査・研究について相手に伝える努力をして、結果を出してきたものです。
一方、国のプロジェクトでは、相手国の事情も多分に反映されますので、そこをどうやって折り合い、運営していくかは難しいところです。
ただ、メコンデルタ地域の生物多様性はとても魅力的です。
今後もこれらを活かすような教育や研究活動を進められたらと考えています。

――2020年3月で本プロジェクトは終了予定ですが、今後の見込みは?

和田教授:本プロジェクトでは農業、環境、水産分野で36の共同研究を実施していますが、すでに完了したもの、2020年末で終わるもののほかに、来年(2021年)10月まで続くものが進行しています。
これまでの5年間で、カントー大学の施設や設備等、研究・教育環境の整備が大きく進みました。
これからは研究・教育活動の質をより上げていく必要があると思います。
2020年度はCOVID-19の影響で海外渡航が制限されたため、プロジェクトの活動に遅れが出ていますので、ある程度の延長措置が講じられる見込みです。
またメコンデルタ地域では経団連の自然保護協議会から支援を受け、自然保護区でのエコツーリズムを活性化させる試みが行われており、本学経済学部の宇都宮譲准教授等が参画しています。
同様に、本学ながさき海援隊の学生たちとカントー大学の学生が参加し、干潟やマングローブ林に漂着するごみ調査を継続して行っています。
本活動は2020年度で終了しますが、今後、本プロジェクトで実施する可能性があればと考えています。

JICA「カントー大学強化附帯プロジェクト」HP

和田 実

所属 (現在)2020年度: 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授
過去の所属2020年度: 長崎大学, その他の研究科, 教授
2014年度 – 2020年度: 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授
2015年度 – 2017年度: 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授
2014年度: 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授
2011年度 – 2014年度: 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授
2011年度: 長崎大学, 大学院・水産・環境科学総合研究科, 准教授
2010年度: 長崎大学, 生産科学研究科, 准教授
2008年度 – 2010年度: 長崎大学, 大学院・生産科学研究科, 准教授
2007年度: 東京大学, 海洋研究所, 助教
1998年度 – 2006年度: 東京大学, 海洋研究所, 助手

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