熱帯病・感染症研究

長崎大学は、熱帯医学研究所を中心に国際的感染症対策などの国際協力に通じた基礎臨床医学・疫学から人類生態学まで幅広い学術的なプロ集団をようする感染症教育研究機関でもあります。本学は2006年9月にJICA委託事業である大洋州予防接種事業強化プロジェクトの事務所を新たに立ち上げ、そして翌2007年3月にはハノイにあるベトナム国立衛生疫学研究所において長崎大学との共同研究所を設置し現在活発な研究活動が行われています。

国際連携研究戦略本部は、熱帯病・感染症研究分野において、海外に研究拠点を拡充し管理運営を進めていくことで、より円滑な研究が行われるよう支援しています。また、将来国連WHO、JICA、世界銀行等その他の国内、国際機関との国際協力事業そのものを大学として積極的に受託するために、大学がこれまで培った高い研究能力のみでは必ずしも十分でないため、国際機関や拠点現地から信頼されるに足る企画、契約、資金管理、人材確保などのマネージメント能力を有するような組織体制の確立も行っています。

長崎大学国際連携研究戦略本部は、このような様々な機関との連携体制を整えていくことでより幅広いグローバル戦略を追求しようとしています。

▷ プロジェクト情報
ベトナムプロジェクトフィジープロジェクトケニアプロジェクトマラウイプロジェクト

ベトナムプロジェクト

新興・再興感染症臨床疫学研究拠点(ベトナム)

文部科学省-新興感染症研究ネットワーク事業
期間:平成17年から平成21年度までの5年間

文部科学省の新興感染症研究ネットワーク事業に長崎大学の上記プロジェクトが採択されました。

本プロジェクトは、国全体としての感染症対策を支える基礎研究を集中的・継続的に進め、人材の育成・知見の集積を図るという目的で発足し、2006年3月にはベトナム国立衛生疫学研究所を海外拠点とした研究室を開設し、長崎大学との共同研究が現在行われています。

具体的には、長崎大学がベトナムNIHE(国立衛生易学研究所)と協力して、デング熱、SARS、鳥インフルエンザなどを含む新興・再新興感染症が流行する根本的要因を科学的に追求し、新しい予防対策を行う事を目的に研究が行われている事業です。

プロジェクトの目標

  • 先端的な臨床介入研究の推進
  • 現地で発生する新興・再新興感染症を症候サベイランス、地域コンホートなどを駆使し、察知臨床疫学研究の試料から得られる遺伝情報の解析、蓄積、情報公開の推進を行います。

ハノイにおける共同研究所

  1. NIHE-NUフレンドシップラボ:NIHE内に研究室を整備、特任教授3名、特任助教2名とコーディネーター1名を配置
  2. バクマイ病院共同研究センターと他の基幹病院・地域病院との連携
  3. ベトナム国内感染症ネットワークの活用

 

フィジープロジェクト:大洋州予防接種事業強化プロジェクト

JICA技術協力プロジェクト(委託業務)

期間:平成17年から平成21年度までの5年間
対象地域:大洋州諸国の13カ国
プロジェクト拠点:フィジー国 スバ

2005年3月長崎大学はJICAの委託事業(5年間)として大洋州13カ国を対象としたEPI(Expanded Programme on Immunization)強化を目的とした「大洋州予防接種事業強化プロジェクト」を開始しました。

西太平洋地域においては、2000年にポリオフリーの宣言が行われ、三種混合の予防接種率も1995年以降80%を越える成果を達成しています。一方で、太平洋諸国はプログラムで使用するワクチンに関するロジスティックやコールドチェーン資機材の維持管理の脆弱さが明らかになり、予防接種関連医療廃棄物(注射針、注射器)の安全な廃棄の問題などがクローズアップされています。

これらの問題に効果的に対処することを目的として、大洋州諸国、多国間援助機関や二国間援助機関がPacific Immunization Programme Strengthening(PIPS:大洋州予防接種プログラム強化)という広域区共同戦略が発足しました。日本はこのような包括的EPIプログラムの中で、特に技術移転や研修を中心とした技術援助を行うことになりました。

本プロジェクトは、フィージー、クック諸島、キリバス、マーシャル、ミクロネシア、ナウル、ニウエ、パラオ、サモア、ソロモン、トンガ、ツバル、バヌアツの太平洋13カ国を対象としています。

プロジェクトの目標

大洋州諸国・地域が自助努力でEPI事業を運営できるようになるため、特に次の三分野での技術移転を行う。

  • ワクチンに関するロジスティクスの整備
  • コールドチェーン維持管理技術の向上
  • 予防接種関連医療廃棄物(注射針、注射器)の安全な処理技術の向上

 

ケニアプロジェクト:JICAとの連携融合事業によるケニア感染症研究拠点形成

ケニア感染症研究拠点形成

「新興・再新興感染症研究ネットワークの構築」
文部科学省特別教育研究経費・連携融合事業費
期間:平成17年から平成21年度までの5年間
拠点:KEMRI

本プロジェクトは「新興・再新興感染症研究ネットワークの構築」を目的とし2005年JICAとの連携融合事業としてスタートしました。

同年9月にはKEMRIと長崎大学とでMOUが締結され長崎大学熱帯医学研究所の海外研究拠点を設置し、オフィス・研究室としての整備が整いつつあります。

立ち上げ当初のスタッフは、教員3名(教授)と事務職員1名でしたが、長短期派遣の研究者の数を増やしさらなる拠点整備とその拡充に務めKEMRIとの共同研究活動を行っています。

プロジェクトのビジョン

  • 国際共同事業・感染症研究の拡大や人材育成の推進

プロジェクトの目標

  • 住血吸虫症とマラリアの疫学・生態学的研究
  • Demographic Surveillance System の構築にもとづく熱帯病のプロスペクティブ研究
  • 実践的教育重視の若手研究者の育成

 

マラウイプロジェクト:マラウイ国再興感染症ウイルス及び媒介蚊の調査方法開発

本案件は、科学技術研究員派遣事業、通称JICA-JSPSプロジェクトと呼ばれ、途上国のニーズに基づき日本人研究者を日本学術振興会(JSPS)が選定、文科省がJICAへ推薦、JICAにより専門家として派遣される。この案件では長崎大学の研究者が派遣されている。専門家は、相手国側受入機関と共同研究および能力開発を目的としたプロジェクト運営を実施するものであり、JICAとJSPSが連携、開発途上国との国際共同研究を促進させる新制度として発足した。そのため、研究に重点を置き、研究を通じて人材育成や現地にプロジェクト成果を還元するという流れを持つ。

イギリスにはWellcome Trust(民間)、フランスにはPasteur(民間)、アメリカにはCDC(政府系)といった海外に研究拠点を設け、長年に亘り現地に根付いた研究を行い、その成果を現地はもとより、自国そして世界へと還元している機関もある。同様に、本案件もODAを通じて、マラウイ国の感染症、特に蚊媒介性ウイルス疾患に特化したプロジェクトを受入機関であるChancellor College, University of Malawi(マラウイ大学CHANCO)と実施している。

では、何をしているのか。簡単に言えば、トラップを使って蚊を採集し、そして、実験室で蚊から蚊媒介性ウイルスを検出、その過程において、現地人スタッフや学生にフィールドワークやラボワークを通じて、技術と知識を教える。そして、彼女・彼らだけでこの調査研究が継続して行えるように支援する事が、専門家に課せられた仕事である。

2012年1月から4月末まで行った雨季の調査では、マラウイ国全土に30か所の採集地点を設け、約14,000匹の蚊を捕まえた。トラップ一台当たりの最も多い採集数は、一晩で屋内827匹、屋外1,196匹という驚くべき結果が得られた。走行距離は8,000kmに達した。現在、同じ採集地点、同じ家屋を対象に乾季の調査を行っており、雨季と乾季でどのように結果が違ってくるか、楽しみである。

2012年6月14日には、関係機関一同を招聘し、ワークショップを開催した。このワークショップは、本プロジェクト成果の中間報告ならびに広報も兼ねていたが、マラウイ国内外の研究者や関係機関を一堂に会する事で、新しい研究ネットワーク構築のきっかけになればという期待も込めた。

マラウイ国内外から錚々たるゲストにご参加頂き、新聞、ラジオ、テレビでマラウイ国内に広く報道されたことで、関係機関、特にマラウイ側関係機関のモチベーションを高めることに効を奏した。さらに、節足動物媒介性ウイルス疾患に対するCHANCOと保健省の幹部からの理解も促進された。また、会場の内外で活発な意見交換がなされ、参加者間の新しいネットワークの構築に寄与できた事は、現場で責任を負う者として、これほど楽しい日はなかった。

さらに、ワークショップに付随して、日本への国費留学制度説明を在マラウイ日本大使館ならびにJSPSナイロビ研究連絡センターから担当者を招いて、学生や若手研究者に対して行った。

マラウイの研究体制は施設・人材共に脆弱で課題も多く、今後、JICAやJSPS、日本の大学による多角的な成果定着に向けた着実かつ長期的な支援が行われる必要は、ある。しかし、より高度な施設・体制を有する近隣機関とのフレキシブルな連携を促進する事によって、アフリカ域内総体として研究の高みを目指す事が重要であるとも考えさせられた。

(プロジェクト専門家 前川 芳秀、長崎大学熱帯医学研究所)

JICA広報誌に掲載されました