~中央アジア・カザフスタン~肝移植の取組み

江口 晋 教授
医学部医学科

当科では、2012年7月よりカザフスタンにおける生体肝移植LDLTを開始し、2013年7月現在、当地で7例の生体肝移植を施行しました。生体肝移植はドナーさんの手術も必要ですので、実際は14人の手術を施行、指導したことになります。

この協力プログラムの発端は、長崎大学が長年に渡り築いてきたヒバクシャ医療に基づくものであります。カザフスタンは世界で9番目の国土面積を持つ国家ですが、北部のセミパラチンスクには旧ソ連の核実験場があり、そのため被曝県である長崎大学とは山下 俊一教授、高村 昇教授をはじめとする原研教室を中心として、長年、臨床・研究・教育面での交流が続けられてきました。私共の教室からも甲状腺の研究、外科治療について現地へ出向き、手術指導などを行ってきた経験を有します。

2012年2月に長崎医療センターを訪れた外科医が私の講演を聴いた後、当院での生体肝移植を3月に2例見学されたのをきっかけに当科に肝移植プログラムの立ち上げ援助を依頼されたのが始まりです。カザフスタンでも本邦と同様に脳死下臓器提供数が少なく、また肝移植は1990年代後半からストップしており、やっと2011年末にベラルーシ国の援助で生体肝移植が1例行われたばかりである状況でした。

まず、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科とシズガノフ国立外科学センター(SNSCS)との間に学術協定を結び、当科とSNSCS肝胆膵外科との間で「生体肝移植プログラムの発展と教育」に関する覚え書きを作成しました。そのような基盤の上に、2012年7月末に当地に出向き2例の生体肝移植手術を行いました。1例目は小生が執刀し、2例目は現地医師の執刀で、私共は助手として指導しました。その後、現在までに計7例のLDLTを行っております。術後管理はメール、スカイプ、国際電話などで行いますが、多少の診断判断のずれが出てくることもしばしばです。しかし、このプログラムは現地での肝移植チームの教育、発展を意図しておりますので、なるべく現地チームの自主性を重視し、反省会は頻繁に行い、施設設備の補充も少しずつ進んでいます。2012年10月、2013年4月には現地医師が3~5人ずつ長崎大学病院に1~2週間滞在し、肝移植のみならず、一般外科、麻酔、ICUケアの研修をされました。我々が手術を教え、手伝うのみならず、このような本当の周術期管理の実力をつけることがカザフスタン国の肝移植医療の発展につながることと期待致しております。

さらには、2012年10月からは現地若手外科医を大学院生として採用し、研究教育も始め、未来のチーム作りに力を入れております。ご家族で来日し、未来のための再生医療の研究をしていますので、今後の教室員、大学のみなさんとの人的交流も期待しています。

以上、昨年より行っている長崎大学とSNSCS間でのLDLT協力プログラムについて御報告致します。かの地に長崎発の肝移植医療が根付き、カザフスタン国民のお役に立つことを心より祈念しています。

CICORNニュースレター第2号(平成25年8月号)掲載記事
http://hdl.handle.net/10069/34013