加藤 誠治 教授
国際連携研究戦略本部
<プロジェクトの概要>
東アフリカに詳しくない方には馴染がないと思いますが、ケニア、タンザニア、ウガンダに国境をもつアフリカ最大の湖、ビクトリア湖は、日本の九州・四国もすっぽり入ってしまう面積を持ち、その資源は東アフリカ内で少なくとも約5千万人の湖辺住民のための生計を担っていいます。又、アフリカで最大の内陸水産活動を支えていて、湖辺住民の食糧や収入源、さらにはナイルパーチ等の魚はケニアの重要な輸出源となっています。
しかしこの資源は、長年に亘り乱開発され、次第にその持続可能性を失いつつあり、魚量と生物多様性の低下、水質や生態系に悪影響を及ぼす富栄養化が絶え間なく進み、また収穫後のシステムが拙劣なために、湖辺住民を社会的、経済的に困難な状況へ追いやっています。
このプロジェクトの目的は、漁獲高、水質の向上さらには生計の基盤となる健全な生態系を造るためにケニア側関係者の知識を高め、水質環境の改善、養殖等に関して新たな技術を導入することにあります。
<“生みの苦しみ”ならぬ、“生みの汗”>
と、プロジェクトの大凡の概要は以上の次第ですが、このプロジェクトが結実する間には長大各部局関係者の“汗の積み重ね”がありました(汗は物理的には積み重なりませんが)
2010年頃、当時の国際連携研究戦略本部の重要課題として、ケニア拠点を全学的な教育・研究の拠点とする取り組みが模索されていました。この構想を現実のものとするため、工学部、水産学部、歯学部、保健学科の各部局長をはじめとする教員の方々が幾度となくケニアのフィールドに足を運び、様々な関係者と議論し、教育・研究活動の可能性を検討してきました。
こうした検討期間、プロジェクトデザインに関してのケニア側との幾度とない協議の積み重ねを経て、ケニア側と協働できるプロジェクトとして提案されたのが、この研究開発プロジェクトです。
<外部資金獲得の“目の付け所”>
このプロジェクトの“味噌”は、研究活動の内容、技術の試行・導入もさることながら、活動のための資金源にあります。これは、他国のフィールドで活動されている長大研究者の皆さんにとっても検討に値する資金のリソースですので参考までに簡単に記載させていただきます。
政府開発援助(ODA)の制度に無償資金協力がありますが、その中に協力資金供与後、同資金供与を活用して得た金額を被援助国政府が当該国の開発資金として積み立てて使用するスキームがあります。これはノンプロジェクト無償援助、食糧援助等の「見返り資金」と呼ばれています。この見返り資金はその使途を当該国の開発に使うことを担保するため、被援助国側と日本政府との間で使途に関する協議が行われ、日本側が了承した場合に同資金が執行されることになります。本プロジェクトは、長崎大学の提案する研究開発プロジェクトを、ケニア政府環境鉱産物資源省が責任官庁となり、先般本学と学術交流協定を締結したマセノ大学と長崎大学が実施機関として協働実施することで、日本政府との使途協議で了承を得ることが出来ました。
実際のプロジェクトの実施に当たっては、マセノ大学と長大ケニア拠点が資金(第1フェーズとして2年間で1億5千万円弱)を共同管理し、工学、水産の先生方が現地に適時出張しケニア側関係者に指導を行い、それを同資金により新規リクルートした長大コーディネーターが現地でフォローする体制を組むこととなります。
こうしたケースが実現するためには、ケニア拠点をはじめ長大関係者のケニア側との密接なコミュニケーションの積み重ねによる信頼関係がなければ成立しなかったことです。
<今後>
今後、資金の管理、ケニア側関係者への技術的な指導等様々な場面でかなりの労力が必要となってくることは想像に難しくありませんが、研究面のみならず、ケニアの開発、ビクトリア湖辺住民に裨益する意義のある活動として結実していくことを目指して長崎大学の面目を掛けて活動してくことになります。
ビクトリア湖での漁 | ビクトリア湖周辺住民の生活風景 |
CICORNニュースレター第2号(平成25年8月号)掲載記事
http://hdl.handle.net/10069/34013