カザフスタン共和国 5人の医師達の短期研修

高橋 純平 助教
国際連携研究戦略本部

2013 年12月14 日~ 20日まで、中央アジアのカザフスタン共和国から市立病院副院長らを含む医師5名の短期研修を受け入れました。以下はその報告および雑感です。

この研修は、これまでの約20 年におよぶ長崎大学とカザフスタンの医療教育研究諸機関との協力関係を背景に、「カザフスタン共和国保健開発センター」という、日本風に言うところの保健省外郭団体からの依頼を受け、CICORN が組織・受け入れを担当することとなりました。カザフスタンでは、「カザフスタンの健康」と題された5年計画の保健医療改革の国家プログラムが進行中で、医療従事者のレベルアップのために海外研修への派遣が近年活発化しているといいます。研修費用はすべてカザフスタン側が負担するという、これまでの旧ソ連圏では考えられなかった研修形態です。資源マネーの財力を後ろ盾に国の近代化を図ろうとするいい意味の貪欲な姿勢が現れています。

折しも、20 年継続されているNASHIM(長崎ヒバクシャ医療国際協力会)主催の夏期専門医研修参加のために2011 年に来崎し、長崎の医療機関を多く視察していた元カザフスタン国立医科大学国際関係課長のエルビラ女史が、この研修のカザフスタン側のコーディネーターとなりました。すでに長崎での研修を経験したエルビラ女史によって提案されたPrimary Healthcare Management in Japan をテーマとする研修プログラムのベースプランが出発点となり、プログラムの企画が始まりました。長崎大学病院を基点に、県庁保健福祉課、長崎県医師会、国立病院機構長崎病院、長崎県健康事業団、南長崎クリニックに、講義および視察の受け入れをお願いしました。

先方提案の優れたベースプランのおかげで、実質4 日間の極めて短期間ながらも、詰め込みすぎずに日本の一次医療のシステムについて全般的に網羅できた研修日程(下記参照)を組むことができました。

と、概要を短くまとめさせていただき、ここからは、5名の来日した医師たちに全日程同行し通訳をした者とし
て、あえて研修以外のいくつかのエピソードなどをご紹介したいと思います。

  • まず来崎した5名の男女比率ですが、♂1:♀4 で圧倒的に女性優位。ソ連時代から今日まで、旧ソ連諸国ではいまでも医学部は「女の園」です。男女比率は、3:7から2:8です。院長、副院長クラスは、男性が多い印象を受けていますが、女性院長もけっして珍しくありません。今回の参加者のうち3 名が副院長、うち1名が男性、2名が女性でした。
  • 福岡空港国際線到着ロビーにはなんと銀行の両替窓口がなく、レンタル携帯の窓口が両替を行っています。が、その上限は一人500 ドル。旧ソ連圏では、医師も一労働者に過ぎず、決して高給取りではなく、未だに医師の平均給与は国の平均に比べて高くはありません。人によっては500 ドルも替える必要のない人も多いと思いきや、みなさんが一様に不満顔。長崎到着後、研修の合間にお連れした銀行ではみなさんがかなりの大金を両替し、研修終了後のフリータイムは、夢彩都やココウォークへ繰り出していたようです。
  • とはいえ、あまり食事にはお金をかけない主義のご様子で、夕食はみなさんスーパーで惣菜を買い、和気藹々と部屋食をされていたようです。カザフスタンは主にイスラム教の国。ポークは御法度ですので、長崎名物ちゃんぽんや皿うどんはあいにくご賞味いただけません。和食も、「カザフスタンにも寿司レストランがいたるところにあるわよ」と言うものの、いわゆる和風だし系の料理への「食いつき」はもう一声。食べやすいほうがよかろう、とお連れした浜口町の某イタリアンのお店も、予算の関係でメインの肉料理を頼めず、パスタとサラダのみのランチセットでは、どうも物足りなかった様子。
  • 稲佐山温泉「ふくの湯」にもお連れしました。サウナをこよなく愛する旧ソ連圏の方々には、日本の温泉は大好評…のはずが、唯一の男性参加者によれば、「カザフスタンの最新のサウナ・スパーに比べたら、悪いがたいしたことないな」。むむむ。旧ソ連圏の方から日本の大浴場を貶す発言を聞いたのは、正直初めてでした。おそるべしカザフスタン・サウナ!?
  • 同じ唯一の男性ドクターは、レントゲン検診車を見学中、技師さんに「一枚撮ってくれる?」と気軽にリクエスト。それはいくらなんでも、と思いつつ通訳すると、「あ、いいですよ〜」と意外な答え。「でも、私は画像を読めませんが?」「いや、自分で読影するから。」撮影してほんの数秒後に映し出されるレントゲン画像を一瞥すると、ご専門は泌尿器のヘビースモーカーのこのドクター、「まだ生きれそうだな。」この研修の一番の収穫だったかもしれません(笑)。

CICORNニュースレター第4号(平成26年4月号)掲載記事
http://hdl.handle.net/10069/34255