カザフスタンとの医療交流(2014年12月)

高橋 純平 助教
国際連携研究戦略本部

中央アジアのカザフスタン共和国は近年医療改革に力を入れています。経済発展に伴って拡大する国家予算を背景に、制度改革、研修機会の拡大が進められています。3年ほど前から学位システムが西洋方式に準ずるものに移行し(ソ連時代の「准博士 “Doctor candidate”」と「博士“Doctor”」から、Doctor = Ph.D. に一本化)、博士号を取るには海外の大学院での数ヶ月の留学が必須となっているようです。最新医療設備の導入にも積極的で、日本の支援を受けたがん診断センターの開設準備も進められています。地域の中核病院には研修のための予算が別途支給される態勢となっており、国内では様々な研修セミナーが開催され、国外へも積極的に現場の医師の研修派遣が進んでいます。またカザフスタンで行われるセミナー(医科大学が主催する特別講義なども含め)に海外から講師が招聘されるケースも増えているようです。

90 年代から、原研、第二外科(現移植・消化器外科)を中心にカザフスタンと交流のある長崎大学へも、近年短期留学・研修受け入れの依頼が増えています。この稿では、CICORN の担当した医療研修受入を中心に紹介します。

2013 年12 月、カザフスタン共和国保健開発センターからの要請を受け、「日本のプライマリー・ヘルスケアと病院運営」をテーマとし地域中核病院院長クラスの研修を初めて受け入れました。長崎日本の保健制度、国民皆保険制についての講義の後、長崎市内のいくつかの病院を視察、長崎県医師会(医師会の役割)や長崎県健康事業団(健診の運営)においても講義をしていただきました。

カザフスタンでは国民皆保険制度への移行が計画されているため、保険制度、医療報酬のシステム、医療従事者の給与管理、などの事項への関心が高く、医療訴訟も増えている社会情勢の中、医師の権利の擁護などについても多く質問が出されました。

受入れくださった諸機関の協力のおかげで大変好評だったこの研修は、2014 年9 月に第2 回の受入れが行われ(受入人数は5→10 名に拡大)、今後も継続していく方向で検討されています。

また今年度はセミパラチンスク核兵器実験場のあったセメイ市(旧名セミパラチンスク)からも長年のパートナーが来崎しました。長崎大学原研が関わったJICA の地域医療改善プロジェクト(2000 年-2003 年)において現地責任者であったエンセバーエフ東カザフスタン医療会議所会長(元セメイ州保健局長)が8 月に来日。今後のセメイとの医療交流拡大に向け、関係各所と協議しました。さらには、長崎大学と学術交流提携のあるセメイ国立医科大学学長も来崎し、平和記念式典に出席。学長の親友でいらっしゃる声楽家のアビーロフ音楽院教授も同行し、文教キャンパスの創楽堂にてその力強い歌声を披露してくださいました。アビーロフ先生は核実験場近くの村のご出身で、唯一の被爆地、長崎・広島で平和への思いをこめて歌うことが夢だったといいます。

カザフスタンは、ソ連が崩壊した1991 年の8 月29 日にセミパラチンスクの核実験場を閉鎖しています。国連はその後カザフスタンの働きかけにより核実験場閉鎖した日を「核実験に反対する国際デー」に制定していますし、カザフスタンは周辺国と「中央アジア非核兵器地帯」を作ることに成功しています。

今後は、院長研修の受入を継続する他に、国民皆保険制度についてのセミナーへの講師派遣、理学療法リハビリに関する講師派遣、障がい者ケアに関する講師派遣などが企画・検討されています。

日本政府は国際保健外交戦略の一つの柱としてユニバーサル・ヘルス・カバレッジへの日本的アプローチ普及を掲げています。今後、国民皆保険が導入されるカザフスタンに対して、長崎大学は医療交流拡張のためのサポートを継続していきます。

CICORNニュースレター第5号(平成27年3月号)掲載記事
http://hdl.handle.net/10069/35132