瀬古 良勝
森川 彰
鬼頭 景子
Helen Marcial
LAVICORDプロジェクトメンバー
2014 年2月3日のキックオフ・ミーティングでスタートを切ったLAVICORD 事業(Lake Victoria Comprehensive Ecosystem and Environment Research for Development Project) も2 年の事業期間の折り返し点に差しかかろうとしています。
遅くなりましたが、キスムでの生活や調査研究活動の一端を報告させていただきます。
ケニアは多様で豊かな自然に恵まれた国です。ケニアの西側には世界でも3 番目に大きなビクトリア湖があり、ビクトリア湖の水はウガンダのジンジャから流れ出てスーダンやエジプトを経て地中海に注ぎ込むまで約6,500km、3ヶ月の旅をします。
ケニアには赤道が通っていますが、国土の大部分は標高1,000m-1,800m の高原にあるため、日本で想像されるような灼熱の地ではなく過ごしやすい気候です。
私たちの住む街キスム
キスムはビクトリア湖の畔に発展した街です。街の郊外を赤道が走っています。しかしビクトリア湖の標高が1,134m なので赤道直下とはいえ日本の真夏のうだるような暑さは感じません。さすがに標高が高いので日中は日差しを浴びながら長く歩くと汗をかき疲れますが日陰に佇んでいると涼しいです。特に、朝はすがすがしく日本の4月下旬頃の感じではないでしょうか。
部屋に置いてある温度計と湿度計を見ていると一日の最高気温は28.5 度位、最低は24.5 度、最高湿度は60%、最低は35% ぐらいです。日本でいえば長野県の夏が一年中続くと行った感じでしょうか。
日本のように四季はなく3 月から5 月ぐらいまでが大雨期、10 月から11 月が小雨期で、それ以外が乾期です。雨期といっても一日中雨が降るわけではなく、夕方から夜にかけて1 ~ 2 時間程度激しいスコールがあります。しかし翌日の朝にはカラッと晴れて清々しい晴天になります。私たちはキスム市の中心街に住んでいます。買い物や郵便局、銀行、ホテル、レスランなどへは歩いて行ける便利なところです。反面、一日中車の騒音や雑踏のざわめきに悩まされます。それでも住んでいるところが大学構内のアパートの3 階と4 階でセキュリティが確保されているので安心です。
最初に驚いたことは、街にボダボダと呼ばれる自転車タクシーが非常に多いことです。痩せた運転手が非常に太ったおばさんを後ろに乗せ汗をかきながらペダルをこいでいるのを見ていると吹き出しそうになります。少し離れた郊外の大型ショッピングセンターや公設市場などに行くときはトゥクトゥクと呼ばれるオート三輪のタクシーを使います。街中にたくさん走っています。最初は大丈夫かなと思いましたが、荷物があるときは大変便利な乗り物です。料金は交渉次第ですが、街中なら60 円、郊外までで120 円ぐらいです。他にも、バイクタクシーや長距離には大型バスやマタツと呼ばれる乗り合いバスなどがあります。もちろん流しではありませんが普通のタクシーも。
ケニアにも大型のショッピングモールやスーパーマーケットがあります。日本ならイオンモールみたいなものでしょうか。キスムにも全国展開のスーパーの支店があって、品揃えは豊かです。ケニアで生産されているものは比較的安く買えますが、輸入品は日本での価格と同じぐらいします。パンや卵、小麦粉、豆類、野菜など基礎的食料品は非課税ですが、その他の商品には16%の消費税がかかります。お金さえ出せば、だいたいのものは手に入ります。しかし、ケニアの人達のみんなが買えるわけではありません。ケニア人の賃金水準と比較すると物価は非常に高いと思います。
野菜なども結構豊富で、トマトやじゃがいも、ニンジン、タマネギ(赤玉)の他にも、白菜、キュウリ、なす、ダイコン、インゲン、ピーマン、小豆、ほうれん草、ブロッコリー、カリフラワー、エンドウ豆、ゴーヤ、ネギ、キノコなども売られています。果物は、バナナやマンゴー、パパイヤ、パッションフルーツ、オレンジ、プラム、ナツメ、ぶどう、スイカ、パイナップル、リンゴ、アボガドなどが安くておいしいです。
ただ日本米だけは手に入りません。多くの銘柄のお米が売られていますが、すべてインディカ米(長粒種)です。ナイロビでは日本米に近い味の韓国米が売られています。
ケニアの治安
ケニアの治安は、いま非常に厳しい状況です。2013 年の秋にはナイロビで大きなテロ事件がありましたが、以後も爆破事件や銃器による強盗事件がナイロビやモンバサを中心に多発しています。最近もソマリア国境地域で武装集団の襲撃によりケニア人36 人が殺されています。大使館の警備担当の領事からも頻繁に安全に関する緊急メールが入ります。
幸いキスムはソマリアから遠く離れており、またイスラム教徒も少ないのでいまのところ市内でテロ事件や凶悪な事件は起きていません。ナイロビでは街を歩くことも大変ですが、キスムでは普通に街を散策することも出来ます。しかし、油断は禁物です。決して夜の街をうろつくようなことはしません。
私たちこんなことをやっています
昨年4 月に、一緒に事業を進める3 人のResearchcoordinator も揃いFinance Manager と合わせて4人のチームになりました。3人はいずれも豊かな海外経験を持ち、言葉も含めて有能な若手の研究者達です。3 のうち2人は日本人で1人はフィリピン人、2人は女性です。出身地や経歴も全く異なる背景を持った4人が、一つの事業の成功を目指して力を合わせています。
森川 彰
このプロジェクトは大きく分けると水を扱う工学部の仕事と魚を扱う水産学部の仕事に分けることができます。私は水担当としてこのプロジェクトに参加しています。数値から見たビクトリア湖。2週間に1回、2か所の港からサンプリングに出かけます。ビクトリア湖に流入する川も2週間に1回出かけます。2か月に1回キスムから離れニャンザ湾が外に向けて広がる地域のサンプリングに出かけます。そのほかに今まで蓄積された数値を利用しシミュレーションを行います。これらの結果から湖の今を知ることができます。
飲料水として見たビクトリア湖。ビクトリア湖は移動手段・水産活動・観光資源として使われているだけではなく生活水として利用されています。それら生活用水の分析もプロジェクトの仕事の一つです。上水道を利用できない地域の人たちは生活用水を直接湖から得ます。しかし植物プランクトンが大量発生して飲料水に適さない水となっている地域もあります。このプロジェクトでは植物プランクトンが産出する毒素に注目し、毒素を生物分解させる装置を湖岸に設置しその評価を行います。また、ビクトリア湖周辺域の人たちの生活用水の水質調査も行います。
水資源の有効利用。ビクトリア湖流域家庭から出る排水の浄化方法を考えます。生活排水を再利用することで採水回数、経済負担の軽減を考えています。再利用方法はケニアで入手できる濾過体を用いた濾過、膜を使った濾過と段階を経て行うことを考え、濾過後中水(下水と上水の間の水)としての利用を考えています。
これらの仕事にはすべて修士課程の学生もしくは修士を卒業した学生が担当しています。私はこれらスタッフの仕事が円滑に進むように調整、長崎側の先生との調整、ケニア側の先生との調整、そして現場の調整と「調整」が主な仕事となっています。仕事場所が広域に広がっているため今日は東へ明日は西へと動いています。
アフリカでの生活も長くなりました。日本に戻りたくないでしょうと聞かれることも多いですが、やはり日本人なので日本の生活が楽です。言葉の問題、文化の問題、宗教の問題。差別や偏見。いろいろなことが精神を蝕んでゆきます。こんな中で日本人として生きていると自分の方向が正しいのか常に疑問を持ってしまいます。アフリカの水を持ってしても、まだアフリカ人にはなれません。しかし、街中を歩いているとき白人観光客を見つけると「あ、外国人だ」と妙に気分の上がる自分がいます。自分が外国人であるということを忘れている瞬間です。
鬼頭 景子
私は、水産分野の研究でビクトリア湖での漁場と漁獲量の調査と湖産の魚を使用したケニア風さつま揚げ作りに取り組んでいます。
ビクトリア湖での漁獲量は、オメナと呼ばれている小魚が最も多く、スズキ亜種アカメ科のナイルパーチ、テラピアが続いています。この3 種類にターゲットを絞り、どこでどれだけの魚が取れているのかを漁師さんの協力を得て、調査しています。漁師さんには、GPS ロガーを漁に出向く際に持っていってもらい、その日の漁獲量をノートに記入してもらっています。私たちは1 週間に1 度、3 つの漁業組合を2 日間かけて回り、1 週間の記録を確認し、その日に水揚げされた魚の体長や体重を測定しています。
漁師さんと協働するのは、単純なことをお願いしても思った以上に骨の折れるものです。まず、英語がほとんど通じません。話せる人がいても、片言。地域で話されているのは、公用語であるスワヒリ語や英語ではなく、ルオ語という部族の言葉です。なので、質問があるときや問題があったときなどは修士学生のインターンに意思疎通を手伝ってもらっています。これは、小学校でもルオ語を使用していることや漁師さんの中には高校を出ていない人が多いことに起因しているのかもしれません。最近は、私も少しずつルオ語を覚え使ってみると、とても喜んでくれます。
2 日間の現地調査から戻ると、漁師さんから直接購入してきたナイルパーチやテラピアを使ってケニア風さつま揚げを試作しています。この取り組みは、ケニアでの魚食を広めること、またそれによりタンパク源を増やすこと、さらには国内の経済活性化を目的としています。ケニアでは、湖周辺やインド洋沿岸では魚食を好む人もいますが、他の地域では浸透していません。
ケニア人は、肉や魚に関してはよく火が通っているもの、また非常に固いものを好みます。そこで、既存の日本でのさつま揚げの作り方をケニア人の好みに合うように固さや塩加減、味なども改良して、試作を行っています。これまでに現地の人に試食をお願いしてみたのですが、快く食べてくれ、おいしいという人もいますが、魚だというとぎょっとした顔で断られたり、食べてみても魚臭さがあり吐き出したりする人もいます。
日本人からの評判はというと、昨年9 月にナイロビで行われた日本人会主催のふれあいまつりでは、一口大のさつま揚げ2 つ入りのものを70 パックほど作り、販売したところ、1 時間で売り切れたほど話題を呼びました。これから、更なる改良を進めて、多くの現地の人に気軽に食べてもらえるようなものができればと思います。
HELEN MARCIAL
Aquaculture is not a new word for Kenyans. They knew that tilapia and catfish can be cultured in captivity, and in fact, intensive aquaculture of tilapia is practiced in many parts of the country. However, if someone is talking about Nile perch aquaculture, people will be asking you “Is it possible?” Fishermen and aquaculturists thought that Nile perch is a very sensitive fish, thus, taking them out of the water will kill them. But then, we are here to teach them that like other fishes, Nile perch can also be cultured in fishpond. We collected fingerlings (around 2-5cm total length) from the lake, transport them alive using an oxygenated plastic bags and culture them in fishpond. At present, we have Nile perch in fishpond at KMFRI, Kegati station where we co-culture with tilapia. Small tilapia produced by these tilapia served as food for Nile perch. We are also monitoring if Nile perch will mature in fishpond so that we can induce them with hormones to spawn, and later on produce larvae which will serve as seeds/fingerlings for fishpond culture.
So why are we promoting Nile perch aquaculture? Nile perch is the main export fish product of Kenya, and if we can culture them in captivity, Kenyans will not depend too much on the lake for the supply. Because of its demand for export, Nile perch command higher price in domestic market. If Nile perch can be cultured in fishpond intensively just like tilapia, Kenyans will have more choices of affordable and delicious fish in the market.
In addition, we also tried to culture in captivity two endangered carp species of Lake Victoria: the “Ningu” or Labeo victorianus and Barbus altianalis. These carps are once favorites of Riparian community around Lake Victoria but due to over fishing and use of illegal fish traps, their population declined dramatically, and presently considered as endangered. Because of this, we aimed to produce “Ningu” and B. altianalis larvae in captivity so that we can re-stock the wild population as well as to promote its aquaculture. We sourced some brood stocks from the wild and induced them with hormone to spawn. At present, we produced thousands of “Ningu” larvae at the hatchery. We are testing several indigenous feed growing in the fishpond as feed for the larvae and locally available materials to formulate diet for the grow-out culture. In this way, we could promote cheaper feeds to aquaculturists who are interested to culture “Ningu”. We hope that we can produce enough and suitable fingerlings for re-stocking the wild stock as well as to provide culturists who wanted to culture “Ningu” in their fishponds. These two carp species can also a good choice in Kenyan restaurants because of their good taste.
CICORNニュースレター第5号(平成27年3月号)掲載記事
http://hdl.handle.net/10069/35132