新型コロナウイルス感染症の拡大により各国政府が国境閉鎖を続ける一方で、一度グローバル化が浸透したこの世界はインターネットの活用によりますますボーダーレスになりつつあります。このような世界で大学はどのような役割を果たしていくべきなのでしょうか?グローバル連携機構ではその問を考えるため、今後シリーズでコロナ期・ポストコロナ期の長崎大学における国際的な取り組みを紹介していきます。
記念すべき第1回目となる今回は、長崎大学環境科学部の五島聖子教授の取り組みを取材しました。「長崎まちづくりインターンシップ」という当初大学の演習に過ぎなかったプログラムが、やがて長崎を起点にし、世界中の学生を巻き込んで日本最大級のメガプロジェクトに息を吹き込んでいくことになるストーリーです。
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五島先生は、千葉大学やハーバード大学で園芸やランドスケープ(地形や景観、庭園という意味)を学び、カナダのトロント大学や米国のラトガーズ大学等で教鞭をとってきました。そして、7年前の2016年に長崎大学に着任しました。
その年からカリフォルニア大学バークレー校ランドスケープ学科の教授陣や大学院生を招き、長崎の地形やまちづくりを学んでもらう「長崎まちづくりインターンシップ」を行ってきました。当初一週間だったこのプログラムは、大学院生のみを招待することで5週間に拡大され、より充実したものに発展。新型コロナウイルスの影響で昨年からオンライン講義に切り替わったものの、中国の蘇州科学技術大学が参加するなど、内容もますます濃いものになっています。
そして、今年4月から「三原庭園」などのデザインを手掛ける石原和幸デザイン研究所の石原和幸氏が、環境科学部の非常勤講師に就任。石原先生が総合プロデューサー兼ランドスケープ・プロデューサーとして関与してきたGATEWAY NARITA(ゲートウェイ成田)のランドスケープデザイン計画に、五島先生のプログラムに参加する学生達が関与することになったのです。
このGATEWAY NARITAは、東京ドーム30個分という広大な敷地にホテルや商業施設、会議施設を併設した新産業集積都市を建設するという日本最大級のメガプロジェクトです。年間入場者数も8000万人を見込んでいるのだとか。石原先生は、このGATEWAY NARITAを、長崎大学やバークレー校の学生のアイディアを取り入れながら、「世界中の人が死ぬまでに一度は訪れたいと思う」施設にしたいと考えています。
五島先生のプログラムでは、GATEWAY NARITAが掲げるコンセプトである「楽市・楽座」のイメージを形にすべく、長崎大学、バークレー校、蘇州科学技術大学の大学院生が一丸となって一つのランドスケープデザインを考案しています。7月8日にオンラインで開かれた中間発表会では、開発計画全体を取り仕切る柳瀨公孝共生バンク総裁本人に対し、参加者全員を代表して長崎大学水産・環境科学総合研究科1年生の古里彩さんとバークレー校のYumiko Nakanoさんが、プレゼンテーションを行いました。なお、中間発表会の様子は、KTNテレビ長崎や長崎新聞社にも取材され、ニュースでも取り上げられました。
中間発表会終了後に取材を受けた五島先生は、「本プロジェクトには、米国、中国、日本というそれぞれ時差の異なる国から学生が参加しており、全ての学生が一同に会することができるのは一日のうち短時間のみで、対面に比べると非常に難しい。しかし、幸い優秀な学生が揃っており、24時間体制でプロジェクトが動いている。どちらかの学生が寝ている間に、どちらかの学生が作業しているという状態」と説明します。五島先生本人は、学生さん達からの昼夜問わない質問に答えるためスケジュールが「非常事態」に陥っているのだとか。
また、「このプロジェクトが実現することによって、今後各自の専門分野に羽ばたいていく学生達が、『これを自分でやったんだ』と誇りを持てるようにしたい」と語ります。
今回プレゼンテーションを行った古里彩さんは、「まさか長崎でこんなプロジェクトに関与できるとは考えていなかった。(我々が提案する案の)一個だけでも採用されるようアイディアを出して、『いいね』と言ってもらいたい」と話します。最初は自信がなかったという古里さんですが、色々やっていくうちに「こういう案がいいんだ」とだんだんと感覚がつかめて自信を深めているそうです。実際、古里さんが提案したアイディアー安土城仁王門を二つの橋で表す(写真2参照)―は、石原先生も高く評価しています。
7月末には東京で最終プレゼンテーションが行われる予定だそうです。石原先生らのプロジェクトチームは、そのプレゼンテーションの結果も踏まえつつ、12月までにマスタープランを確定し、来年秋の着工を目指しています。少しでも学生さん達のアイディアが採用されるよう願ってやみません。