長大生、魚を求めて海外のフィールドへ

藤野 忠敬 助教
国際連携研究戦略本部

ベトナムのカントー市。メコン川の広大なデルタ地帯には営業分に富んだ水に、日本でお目にかかれない、ナマズやハゼ類、ナイフフィッシュ、古代魚などが数多く生息しています。こうした魚は種類によっては大規模な養殖がなされ、現地のみならず世界に広く消費されています。そんな魚の一つで日本のスーパーでも販売されているパンガシュウスナマズ。メコンデルタの養殖を支えるこの魚を追いかけて、一人の長大生が2015年9月から現地のカントー大学で研究をしています。野間昌平君(M1)は養殖の最重要魚種であるパンガシュウスナマズの呼吸の仕組みを探るために、3ヶ月間現地で生活をしながら、ナマズのサンプルと格闘中。野間君がお世話になっているベトナムのカント-大学は長崎大学と2012年に学術交流協定を結んでおり、JICAの円借款「カントー大学強化事業」(2015年7月貸付契約調印)と連携して、様々な研究を長崎大を含む日本の大学と展開するポテンシャルを持つ大学です。

ベトナムの生活の魅力は、その生活費の安さと美食にありといっても過言ではありません。野間君の住むアパートの家賃は月15000円ほど。食事は有名なフォーを初めとする様々なタイプの麺料理、豚肉料理、淡水魚料理で、日本で食べない食材もいろいろあります(変わったところでヘビやハト)。値段は安く、学食の食事なら1食100円から150円・研究面では日本とのインフラ・環境の違いはありますが、現地の先生方や学生の協力で新たな研究を開拓しながら第一次産業に関わるチャレンジを行うのにカントーは魅力一杯の土地です。

パンガシウスナマズのサンプル処理をする野間君 カントー大の学食
一食100~150円
カントー大本部に設けられた
長崎大の交流推進室

台湾沖の東シナ海。ここでも、長崎大の学生が魚を追ってフィールドに出ました。刀祢君(M1)は日本と台湾を行き来していると見られるバショウカジキの回遊生態を明らかにするため2015年6月から2ヶ月、国立台湾海洋大学及び行政院農業委員会水産試験所との共同研究で台湾漁船に乗り込み、カジキにデータロガーを装備して遊泳中の体温、環境水温、深度、速度、加速度の情報を収集しました(公益財団法人交流協会の若手研究者交流事業と笹川科学研究助成による)。一方で台湾からは国立台湾海洋大学の大学院生・林憲忠君が9月から1ヶ月、長崎に来て鹿児島から台湾へのバショウカジキの南下回遊を調べています。魚ならぬ、学生の回遊。国境なき海を回遊する魚の研究にはこうした複数国間での取り組みが必須となります。

バショウカジキを抱える
刀祢君と林君
刀祢君の調査に協力してくれた台湾漁船の船長さんと刀祢君 台湾の宴会

東シナ海における”International Workshop on the Oceanography and Fisheries Science in the East China Sea”は長崎大が貢献している複数国間の研究プラットフォームの一つ。1997年から始まった本ワークショップは今年で10回目を迎えました。今年は済州島で上海海洋大学、国立台湾海洋大学、国立済州大学校の学生と、琉球大学、長崎大学の学生がstudent sessionで交流を深め、将来の情報交換等について話合いました。必ずしも英語が得意でない国同士で気負いなく英語でのコミュニケーションを図る事は学生の次のステップへのよい経験となっています。

発表に望む長大生たち 10回目を迎えたワークショップを記念した
集合写真

海外のフィールドはもちろん言葉も常識も食事も違いますが、そんな中で環境の違いをうまくこなして、データを取り、研究を進めていくのはかけがいのない貴重な経験となります。学生がこうした経験が積めるフィールドを今後も活用し、発展させていくことが本当に国際的な水産人材の育成に求められることかもしれません。

CICORNニュースレター第6号(平成27年12月号)掲載記事
http://hdl.handle.net/10069/36064