研究教育支援と環境保護がそなえる社会的意義:ODAによるCTU研究教育強化支援事業から

宇都宮 譲 准教授
経済学部

自己紹介とMo O 集落
縁あって、カントー大学(Can Tho University; CTU、ベトナム) 教育研究高度化を目指すODA(Official Development Assistance、政府開発援助)事業に参画させていただいております。小職は、経済や社会という観点から、持続可能なエビ養殖業や農林業について考察する研究を、CTU 研究者とすすめるグループに所属します。

研究対象があるMo O 集落と周辺の様子を、述べさせていただきます。ソクチャン省は、ベトナム南部メコンデルタ地方にある省です。Mo O は、ソクチャン省にある小さな集落です。ヘアピン型をした延長5km ほどの小道をはさんで、人々が生活します。干潟は、集落からマングローブをはさんで、海側に広がります。集落に住まれる方々は、養殖池やスイカ畑で働く、村内で各種サービス業に従事する、あるいは漁船漁業にて生計を営みます。兼業しながら生活する人々も多いようです。

Mo O 集落周辺を観察すると、集約型エビ養殖(高密度飼育するエビにエサをやり育てる養殖方式)が営む池が目立ちます。エビ養殖池は、必要な水を周辺に入り組む水路から採水しまた排出します。運河の水質はエビ養殖業にとって死活問題です。周囲には干潟しか水質浄化機能を有する生態系は見当たりません。同干潟が保持するレジリエンス(回復力)は、エビ養殖業に貢献すると考えられます。

Mo Oの位置関係

Mo O集落にて清算される魚の干物

ベトナムのエビ生産と我が国
エビ養殖関連指標を紹介しつつ、本事業が有する意義について述べさせていただきます。「ベトナム水産統計」によれば、2014 年にソクチャン省において養殖エビは82,227トン生産されました。ベトナムにおける養殖エビ生産量のおよそ13% に相当します。海岸延長が短くエビ養殖好適地は多くない割に、生産量は多いと考えられます。生産された養殖エビは、ほとんどがベトナム国外へ輸出されます。

わが国財務省が作成する「貿易統計」によれば、わが国は2015 年に438 億3378 万3000 円に相当するエビ(加工食品含む)を輸入しました。輸入額において、ベトナム産エビは首位に位置します。「ベトナム海産物生産輸出協会資料」によれば、2015 年には2,500 万US ドルに相当するエビをわが国輸出しました。輸出先として第4 位に位置します。双方で値が異なりますが、集計項目や集計方法がもたらす差異と考えられます。後者にはピラフやエビフライなど加工品は含まれないでしょうし、協会加盟会員向け調査と考えられますから、わが国輸入統計と差異が生じることは自然です。

ともあれ、大量のエビが、ベトナムから日本など各地へと輸出されることがわかります。他にみるべき産業がないソクチャン省やMo O 集落にとって、エビ養殖と輸出がもたらす収益は重要です。日本にとっても、貴重なエビ供給源です。エビ養殖業を持続的に営むことができるよう、様々な領域から研究者が集まって研究をすすめることには、明らかな社会的意義があります。そしてこうした集学的な研究が実行できる大学は、長崎大学をおいて他にないようにおもわれます。

国別エビ製品輸入額年次推移(青がベトナム/「貿易統計」より宇都宮作成)

Mo O における環境保護区構想
エビ養殖は、課題が多い産業です。集約的エビ養殖は、タイやインドネシアなど周辺諸国においても盛んに実施されます。各地において過密飼育に由来する環境悪化、病気、価格下落など、さまざまな問題が発生します。Mo O 周辺においても、さような事例が発生、今後が懸念されます。幸い、いま環境保全に着手するならば、まだ間に合うように考えられます。おいしい海産物(エビ以外にもおいしいものはMo O にたくさんあります)が、まだ間に合うことを示唆します。

Mo O 干潟環境保全について、われわれにできる貢献は研究成果を出すことです。加えて最近は、一歩進んだ環境保全活動に着手しました。本学ホームページ(2016 年10月11 日付)に既報の通り、石松惇博士(水産学部)は、Mo O に生息する貴重な生物群集と生物多様性について、環境保護を学ぶ経団連一行に、現状と研究成果を示されました。これをきっかけに、干潟における生物多様性や社会的機能に関する研究をさらにすすめるとともに、干潟内に散らかるプラスチックごみを収集して環境を保全する活動やプラスチックごみを散らかさないようにする啓蒙活動も計画中です。ゆくゆくは、同地が環境保護区になればと期待しています。

同活動をはじめるきっかけはODA にまつわる研究でしたが、予想もしない展開を見せています。これは、ODA 事業にまつわる本学による取組がもつ可能性を示唆するように考えます。微力ながら、今後も精一杯貢献させていただければと念じます。

CICORNニュースレター第8号(平成29年3月号)掲載記事
http://hdl.handle.net/10069/37064