– 海外拠点便り – ベトナム拠点

山城 哲 教授
ベトナム拠点

長崎大学熱研に来て7年がたつ。熱研は文部科学省委託のJ-GRIDというプログラム校に選定されており、その関係で長崎とベトナムハノイとを行ったり来たりの生活である。

長崎と言えば、諏訪神社の奉納祭で、毎年10月初旬に催される、「長崎くんち」が有名である。長崎市に古くからある町を七組に分け、年ごとに奉納踊りを「踊り町(おどりちょう)」として披露する。今年の踊り町の一つに本石灰町(もとしっくいまち)が当番となったが、町の山車は「御朱印船」で環境客の人気も高いものである。そこには男女2人の子供が乗船している。男の子は長崎商人の荒木宗太郎の役、そして女の子は、ベトナム人のお姫様とされるアニオー姫の役である。アニオー姫は16~17世紀、中部~南部ベトナムを支配していた玩(グエン)一族の当主の娘であるとされている。長崎県立博物館に所蔵される「金札和解」によると、当時荒木宗太郎は、東アジア交易ルートの主要な港として栄えたベトナム中部のホイアンを拠点にし、王の信頼を得て、娘のアニオー姫を妻にめとったとされる。アニオー姫は御朱印船に乗って長崎入りしたとされ、婚儀の際には宝物が列をなし、お供の者が来た羽衣の様な衣装(アオザイ)は美しく、長崎の人々の心を奪ったとされる。またこの二人は住民に対して善行を行ったとされ、それを顕彰して本石灰町では長崎くんちで御朱印船の形をした山車を引き回すのである。このようにベトナムと長崎との間の人の交流は16世紀~17世紀の東アジア大航海時代に遡る。人の交流は現代も続く。長崎大学がベトナム国立衛生疫学研究所(NIHE)に研究拠点を設置した2005年度から現在までに延べ15名のベトナム人若手研究者が長崎大学の大学院生として教育を受けている。学生はNIHEやホーチミンパスツール研究所らの若手研究者で、熱研を主体とした研究室でウイルス学、細菌学、病害動物学等の分野で研鑽を積んでいる。最初は英語でのコミュニケーションに苦労するようだが言葉の上達は早い。初期トレーニングさえきっちり施せば、勤勉な国民性もあってこつこつとデータを出すようで、受け入れ研究室での評判は概ね良いようだ。近年その卒業生の一人がNIHEの疫学部門の部長に抜擢された。このように長崎大学で教育をうけた者からNIHEの中枢を担う者が出てくるのは喜ばしい事である。ベトナム拠点で行う研究活動はNIHEとの共同研究の形を取るものが多い。NIHE側の研究者と様々な議論をする中で研究計画を練って行くのだが、同じ釜の飯を食った者同士だと話の分かりが早いのだ。

平成24 年度より、ベトナム拠点で長崎大学医歯薬学総合研究科に属する熱帯微生物学分野を開設する事となった。これをうまく運用すれば、博士課程ほとんどの時間をベトナム拠点での研究に当てる事ができる事となり、熱帯医学や感染症のフィールド研究の専門家を志す者には朗報であろう。とりわけベトナム人研究者には利益は大きい。これまで日本の大学院に進学するには、試験に合格すると同時に国費留学生の枠を当てる必要があったのだが、入学試験と卒業時の口頭試問とを長崎で受けさえすれば、後はベトナム拠点で研究に励めば良い、という事になる。ベトナムは科挙の国であり勤勉さと学問を尊ぶ。東アジアに広がる儒教文化圏の最南端の地域ではないか。これまで欧米に流れていたベトナムの優秀な人材を、長崎大学が受け皿の一部となり大切に育てて行くと、彼らの中に将来長崎大学を背負って立つ有為な人材が出てくるかもしれない。いまや福岡空港とハノイは週に二回直行便が飛び、ハノイからの便は風の影響もあり、所要時間は4 時間を切る。また日本の文部科学省は、各大学の尻をたたいて特に東南アジア地域に橋頭保を築き、将来日本の大学を背負って立つ事になる(かもしれない)人材を当地に求めよ、とのシグナルを盛んに出しているように見える。いまや日本の大学にとって留学生を取るという事は、大学院の定員を埋めるとか国際協力とかいう意味合いではなく、大学の存亡を左右するものと心得てかかるべきである。アニオー姫の時代から数世紀が経過するが、東シナ海・南シナ海を取り巻く国々のお互いの重要性は当時以上に増している。

CICORNニュースレター第3号(平成25年12月号)掲載記事
http://hdl.handle.net/10069/34014

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