拡大するカザフスタンとの医療交流

高橋 純平 助教
国際連携研究戦略本部

前稿(平成27年3月号)で紹介したカザフスタンと長崎大学との医療交流は、今年度に入ってもなお拡大の一途をたどっています。最近の動向の主なものをリストアップしてみます:

① WHOへ出向中の野崎CICORN副本部長のアルマティ市への派遣(5月)。「ユニバーサル・ヘルスカバレッジ」をテーマに講演
② 蒔本長崎県医師会長、山下理事・CICORN本部長を含む代表団のアルマティ市・セメイ市への派遣
* 提携校であるカザフスタン医科大学、セメイ医科大学、およびセメイがんセンター、アルマティ第7市立病院などの訪問
* 長崎県医師会と共和国医療会議所東カザフスタン支部との協力に関する覚書締結式
③ 3度目となる長崎におけるカザフスタン院長・副院長医療研修(9月)
④ JASSO(日本学生支援機構)の協定留学支援制度を利用しての長崎大学への留学生受入(セメイ2名、アルマティ3名)
⑤ 災害・被ばく医療科学共同専攻修士大学院への入学希望者(セメイ2名)

① まずはGW明け早々の5月中旬、ジュネーブのWHO本部へ出向中の野崎教授がカザフスタンへ招聘され、「ユニバーサル・ヘルスカバレッジ」について2日間のセミナーが行われました。医療費無料システムをソ連時代から受け継ぐ中で遅れていた医療の近代化に近年積極的に取り組む中で、2年後に迫った医療保険制度の導入への対応はすべて医療機関にとっての喫緊の課題です。野崎教授は、日本の国民皆保険制度の紹介のみならず、イギリス、タイ、スイスなど様々な国の医療保険制度の特徴を紹介し、カザフスタンの選ぶべき制度について広く考察する必要性を説きました。

② カザフスタンでは例年肌寒くなっている8月末、蒔本長崎県医師会長を団長とする代表団がカザフスタンを訪問しました。CICORN本部長である山下理事、高原県医師会副会長、原研中島教授、原研林田教授、原研ムサジャーノワ・ポスドク研究員、長崎・ヒバクシャ医療国際協力会(NASHIM)西教員、CICORN高橋という構成です。肌寒いどころか好天に恵まれ続けた一週間となりました。
アルマティでは提携校であるカザフスタン国立医科大学を訪問し、学長と今後の協力関係強化について確認しあい、大学付属の病院も訪問しました。山下理事とは20年来の協力関係にあるアビーロフ内分泌センター所長宅にも招かれ昼食をご馳走になりました。
また、病床1000以上の救急を専門とする第七市立病院も訪問し、その近代的な設備と病院経営へのアプローチにカザフスタンの医療の着実な進歩を実感しました。
セミパラチンスク核実験場に近いセメイ市(旧名セミパラチンスク)では、提携校セメイ国立医科大学での学術会「放射線・人間・環境」に参加し、山下理事、中島教授が発表。翌日の入学式では医科大学学長に次いで山下理事も祝辞を述べました。さらには、長崎大学での短期留学プログラム(NISP)で1年間の留学から帰ってきたばかりのマディナさん(5年生)も学生代表で新入学生に挨拶していました。
セメイ市で訪れたがんセンターでは、昨年建物が改築されPET-CTが2台、自前のサイクロトロン、スペクトルCTも2台、など高度な医療機器が導入されていました。20年前から同センターを知る山下理事はその劇的に改善された設備環境に感激しきりでした。
この訪問の最大の目的である長崎県医師会と共和国医療会議所東カザフスタン支部との協力に関する覚書の締結は、セメイ市役所の一室で、市長、市の保健局長ら主要な医療関係者、地元メディアの見守る中行われました。
セミパラチンスク核実験場が閉鎖された日で国連が「核実験に反対する国際デー」(International Day against Nuclear Tests)と制定した8月29日には、核実験場閉鎖記念のモニュメントでの献花式が行われ、蒔本医師会長と山下理事は長崎代表として献花しました。

③ 3年目のカザフスタン院長・副院長医療研修の受け入れは、9月の最終週に行われました。異なる都市からの6名の院長・副院長・専門科長が来崎しました。長崎大学病院の諸先生の他、長崎県医師会、国立病院機構長崎病院、南長崎クリニック、長崎健康事業団において、大変丁寧な講義、視察受け入れをしていただきました。今年は国民皆保険制度についての理解を深めていただくため、保険制度にしぼった講義をひとつ設けました。カザフスタンの医療状況に沿った質問が多く投げかけられました。特に医療訴訟に関する質問が多かったことも、カザフスタンの医師が置かれている現状を物語っているようでした。

④、⑤ 8月のカザフスタン訪問において、山下本部長は、8名の長崎大学留学希望者と面談しました。4名(アルマティ2名、セメイ2名)は、JASSO(日本学生支援機構)の協定留学支援制度を利用した博士課程留学予定者。2-3ヶ月間の留学予定です。2名(アルマティ)は、カザフスタン政府もしくは大学の助成を受けての、やはり博士課程留学希望者。1名は今年の冬、もう1名は来年度の留学が予定されています。JASSOの留学枠では、もう1名、移植消化器外科への留学もすでに決定しています。
さらにはセメイでは、来年4月に解説される福島医科大との共同大学院・災害被ばく医療科学共同専攻への入学希望者2名とも面談しました。現在入試へ向けての手続きが進行中です。

このように拡大を続ける一方のカザフスタンとの医療交流。特にカザフスタン側の積極的な姿勢が目立ちます。ここに掲げた交流とは別に、大村の長崎医療センターも活発にカザフスタンの医師を受入れていると伺っています。県医師会との協力の覚書が交わされた医療会議所東カザフスタン支部からは、すでに長崎での医師研修の申し込みがあり、今後も益々活発な交流が予想されています。

私自身は長崎大学ベラルーシ研究拠点を中心にロシア語圏諸国との共同研究などの調整を担当していますが、今年に入りカザフスタンへすでに2度足を運んでおり、今後もカザフスタンでの活動の比重が大きくなることが想定されます。コミュニケーションの言葉はロシア語ですが、やはりアジア人気質のようなものは感じられます。カザフの方々も同じアジアの国で、例えば年長者を敬う文化など同質の文化圏という意味で日本という国へ独特の親近感を感じているようです。

セメイ医科大学入学式の様子 セメイ市郊外に建立された核実験場閉鎖モニュメント 長崎県健康事業団の検診バスの前での記念撮影

CICORNニュースレター第6号(平成27年12月号)掲載記事
http://hdl.handle.net/10069/36064