~海外拠点便り~ ベラルーシ拠点

木村 悠子
原爆後障害医療研究所

私は、大学院の研究の目的で、合計で約5ヶ月間ウクライナのコロステン市に滞在しました。

コロステン市は、ウクライナの北部、ジトーミル州中心都市の一つで、首都キエフからは西に約150kmの距離に位置しています。この町は、チェルノブイリ原発事故により汚染された地域の一部であるため、1990年代初頭から始まった笹川財団による小児の甲状腺スクリーニングプロジェクトでは拠点の一つとなりました。「ジトーミル州立コロステン市広域診断センター」もその際に設立され、山下俊一教授をはじめとした長崎大学の多くの先輩方がこのセンターに滞在し、ウクライナの医師達と協力して地域住民のスクリーニングを行われました。笹川プロジェクト終了後も、長崎大学と診断センターは協力関係を維持しており、これまでにいくつもの共同研究を行ってきました。また、研修のために長崎を滞在したことのある医師も多く、親日的な空気にあふれている医療機関です。

私は、昨年からこの診断センターで、チェルノブイリ事故による放射線被曝と甲状腺良性疾患との関係についてなど、いくつかの疫学研究を行ってきました。滞在中は主に、若年成人を中心にアンケート調査、血液検査、甲状腺エコー、ホールボディーカウンターでの内部被曝評価などのデータの収集を行いました。英語がほぼ通じない環境だったので、ベラルーシ拠点の高橋コーディネーター(CICORN所属)に研究打合せの通訳や各種調整のサポートをあおぎました。私自身はエコー専門の医師と協力してエコー診断の補助をやりつつデータを集めることになりました。このエコーを一緒にやらせてもらえた経験は、研究対象はもちろん、それ以外の住民の甲状腺疾患の頻度や、その他の疾患頻度も理解する事ができ、とても良い体験となりました。

そんな滞在中の楽しみの一つは、誕生日を祝ったりするために、月に1、2回程度開かれる持ち寄りパーティーでした。毎回異なる料理が持ち寄られ、数種類のサラダや、チキン、ポークソテーなどなど美味い料理ばかり!自炊すると同じようなものばかりになっていたので、今日は何かな?と毎回ワクワクしていました。ウクライナの宴では、順番に短いスピーチを行い、その都度ウォッカで乾杯を繰り返します。当初は、私にスピーチが回ってくる事は無かったのですが、あるパーティーでとうとう私にもスピーチが求められました。ロシア語は話せないと一旦断ったのですが、とにかく何でもいいから話しなさい、の一点張り。ここでは内容よりも、気持ちを表現する事を皆が期待していると気がつき、思い切って日本語で感謝の気持ちを込めてスピーチしたところ、気持ちは伝わったらしく、笑顔で乾杯し、その後もたくさん笑って食べて、素晴らしい時間となりました。

チェルノブイリ原発事故の影響を受けたウクライナで健康影響を評価し続ける事は、ウクライナのみならず、福島の今後を考える際にも非常に重要となります。私達は、今後もコロステンを研究拠点の一つとして研究を継続し、ウクライナ、日本、両方の国に住む人達の健康管理に役に立てるデータを築いていきたいと考えています。そして、また必ずウクライナへ出向き、あの暖かい人達と素晴らしい時間を過ごしたいと思います。

CICORNニュースレター第2号(平成25年8月号)掲載記事
http://hdl.handle.net/10069/34013